まるで隣から応援を貰ったみたい。










 P! P! P! P! P!

 携帯電話が鳴る。
 ハッと集中が途切れて俺は慌てて携帯電話を探した。

「はい」

 ソファに投げ出してあった携帯電話を掴んで慌てて通話ボタンを押す。

『もしもし?』

 少し控えめに発せられた落ち着いた声音。
 誰よりも大事な女の子。

「直斗」
『あの・・遅くにすみません』
「いや、いいよ」

 自然と声が甘くなる。
 それはしょうがない。だって、彼女は俺の恋人だから。

「どうしたの? 何かあった?」

 時計を見ればすでに時刻は日付を越えようとしていて、俺自身も驚く。

『いいえ。何もありませんよ』
「本当に?」

 しつこく問えば直斗が小さく笑った。
 なんだか耳をくすぐられたような錯覚がした。

『本当ですよ。・・・ただ、先輩が根を詰めすぎているんじゃないかと思ったんです』
「ああ・・・」

 ぎくりと身をすくめて曖昧な言葉を残してしまう。
 これではその通りだと言っているようなものだ。
 案の定、

『やっぱり。そうなんですね』

 少し語気が強くなる。

『受験は体が資本ですよ。無茶をして体調を崩したりしないでくださいね』
「うん。分かった」

 俺以上に俺の事を心配する直斗の気持ちが嬉しくて笑みがこぼれる。

『本当に分かっていますか? 先輩は夢中になると周りが見えなくなることがあるんですから。本当に気をつけてくださいね』
「ありがとう、直斗」
『! べ、べつにっ、その・・・あの・・・・・・・』

 顔を真っ赤にして照れているのが脳裏に浮かぶ。
 電話じゃなくて、直接顔が見たいなぁ。

 この前あったのはいつだったんだろう。

『先輩?』

 黙りこんでしまった俺を不振に思ったのか、直斗が不安げに声をかけてくる。俺は「うん?」と返事を返した。

『どうかしましたか?』
「うん・・・会いたいなぁって、思って」
『・・・はい。僕も、会いたいです』

 切ない雰囲気が互いの間を流れる。
 自分から話を振っておいてなんだが、せっかくの電話で雰囲気を暗くするのは嫌だったから、俺はあえて明るい声を出した。

「今日はありがとう、直斗」
『え?』
「電話、嬉しかった」
『・・・それなら、よかったです。あんまり無理をしないで、頑張ってくださいね。先輩ならきっと大丈夫ですから』
「そんな。俺だってどうなるか分からないよ」
『いいえ。そんなことありません。先輩なら、きっと大丈夫です』

 その確信して疑わないという口ぶりに、俺は苦笑を零す。
 そしてやっぱり、一生懸命に言い募る直斗の顔が脳裏に浮かぶ。

「ありがとう」

 何度目かのお礼を言う。

「まるで、隣から応援を貰ったみたいだ。すごく、心強い」

 耳元で、直斗の声を聞きながら、脳裏では彼女の顔が浮かんで。
 本当に隣にいるんじゃないかと錯覚する。

「・・・大好きだ」

 君の存在は誰よりも俺の心を支えてくれる。
 どんなに辛くても、君がいるから耐えられる。

 誰よりも大事な、女の子。
 ずっと君の隣にいられるように、俺は頑張るよ。







配布元:Abandon
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