きっとそこにいる。 直斗Ver










『離れてもきっと大丈夫だよ』



 それはさらりと彼が放った一言だった。

 もうすぐ、春が来ますね。
 そう言った僕は別れの時が刻一刻と近づいてくる寂しさが募って、離れたくないと強く思っていたから、彼のそのあっさりと言った言葉と笑顔にひどく傷ついた。

 先輩は『離れても気持ちが薄れる事はない』、そういう意味で言ったのだと思う。
 けれど、その時の僕はどうしても先輩の態度が許せなかった。

 こんなに、想っているのに!
 こんなに、寂しいって思っているのに!

 どうしてそんな簡単に言えるのか。
 そんな思いが渦巻いた。


 しばらくして、冷静になった僕は自身の態度の悪さに後悔をしたけれど、それと同時に弁解はともかく、追いかけても来なかった先輩に対しても頭にきたから、そのまま連絡をしなかった。

 本音を言えば先輩から連絡をして欲しかったのだけれど、彼からはあれ以来一度も連絡が来なかった。

 もう、だめなのかもしれない。
 飽きられたのかもしれない。

 マイナスな事ばかり頭に浮かんで憂鬱な日々が過ぎる。

 こんな事になるのなら、もっと早く素直になっておけばよかった。
 鼻がツンとして目頭が熱くなる。

 いつからこんなに泣き虫になったのか。

 もう何度となく涙を流したのに、枯れることなく目じりから涙が溢れる。

「先輩・・・っ」

 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 素直になれない僕を許して。
 ただ、あなたと離れたくなかった。
 ずっと隣にいたいと願った。
 それだけだった。
 なのに、それが叶わない。
 それが辛かった。
 先輩。
 ・・・先輩。
 ごめんなさい。
 どうか、僕を嫌いにならないで。





 涙を制服の裾でぬぐう。
 ようやく止まった涙。

 僕は大きく息を吐き出した。

 分かってる。
 物理的な距離が離れても、きっと僕たちの気持ちは離れない。
 そう願い続けている限り、きっとそこにいるって、分かっている。

 だけど、やっぱり寂しいと思う気持ちは止められない。
 だから先輩。
 どうか僕が離れても大丈夫だと思えるようになるまで、手を離さないでいて。







配布元:Abandon
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