きっとそこにいる。 主人公Ver
直斗が行方不明になった。
原因は、些細なケンカ。
何がきっかけなのか分からないくらい小さな事が、流せないくらい大きくなって二人の間に溝を作った。
意地を張って、引き返せなくなって、気がついたら直斗は俺の前から姿を消した。
「おまえいったい何したんだよ」
俺の落ち込みようを見た陽介が心配そうに眉を寄せて俺に声をかけた。
「何も・・・していない、はず」
「んな訳ねーだろ。何もしてなかったらこんなにこじれてねーだろ」
陽介の言う事はもっともで、俺はさらに気持ちが落ち込む。
「思い当たる事はないのか?」
それは俺も考えていた。
きっかけはたぶん一週間前に一緒に帰ったときだと思う。
何かを話していたら(情けないことに何を話していたのか思い出せない)、突然直斗が先に帰ると言い出して、止めるこちらの手を振り切って走っていってしまったのだ。
俺はその態度に戸惑いと・・・少しだけむっとして、何が原因か分からないが、怒っているのなら少し距離を置けば直斗の機嫌が直るだろうと・・・放っておいてしまった。
それがいけなかった。
あの時、ちゃんと追いかけて理由を聞いておけばよかったんだ。
いつまでたっても機嫌が直らない直斗に焦れて、意地になって直斗が折れるまで俺からは話しかけないと意地になった。
俺はバカだ。
「めずらしいな、おまえがそんな子供っぽい態度を取るなんて」
陽介は俺のとった行動に驚いたようだが、それは俺も同じ。
こんな態度、直斗にしようなんて今まで思ったこともないのに。
「なんであんな事をしたのか分からない・・・」
額を押さえて心の底から息を吐き出すと、陽介がこれまた意外そうに目を見開き、次の瞬間にはニヤリといやらしく表情を歪めた。
「なーんだ、おまえ分かってないのかよ」
「そういう陽介は分かるのか?」
「あたり前だろ!」
胸を張る陽介をまじまじと見る。
「甘えてんだろ」
「は?」
「だから、直斗に甘えたんだよお前は」
予想外の言葉に言葉を失う。
俺が、直斗に甘えた?
「直斗なら無条件で許してくれるって思ったんだろ? 機嫌を損ねさせた理由だって、きっと直斗なら受け入れてくれるって思ったからだろ?」
そう、なのだろうか。
「けど、直斗はまだ怒ったままだ。怒らせた理由よりもやる事があるんじゃねーの?」
「!」
陽介の言葉にハッとする。
「直斗だってきっとどうしたらいいのか分からないんだと思うぜ。どっちかが動かなきゃこのまま終わるぞ。それでもいいのか?」
あんまりにもその通りで、俺は笑った。
「・・・・・・・陽介に諭されるとは思わなかった」
「うるせー」
さっさと行け!と手で振り払われて俺はむっとしたが、今回ばかりは感謝だ。
俺は直斗のクラスで彼女が登校してきていないことを聞くと、いまだ授業の残っている学校を飛び出した。
直斗はきっと、あそこにいる。
直斗が好きなあの場所。
俺に想いを返してくれたあの高台に。
きっとそこにいる。
俺はなぜか確信してその場所に向かった。
配布元:Abandon
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