きゅん。
「千枝先輩って、可愛いのにあんまり女の子らしい格好しないですよね」
「は?」
「ひらひら?っとしたやつとか」
「そんなの、あたしに似合うわけないでしょ!」
突然何いってるんだかこの子は。
「え?。わたしは似合うと思うけどなぁ・・・」
「はいはい」
「あーっ、本気にしてないなっ! こうなったら似合うってこと、証明しようじゃないですか! 覚悟してくださいっ!」
「え? は? ちょ。りせちゃん!?」
やる気になったりせちゃんは、あたしの言う事なんて聞いてくれなくて、あれよあれよという間に着飾ってしまった。
「じゃーんっ! どうですか? 少しスポーティなところも取り入れてみました」
そうして出来上がったのはいつもの姿ではないあたしがいて。
ボレロのカーディガンに裾がひらひらとレースが重なった可愛いキャミソール。
それにあわせて履くのはデニムのショートパンツで、曰く「千枝先輩は足が綺麗だから絶対出したほうがいいんですっ!」との事で。
まぁ、ショートパンツはよく履くから抵抗はないけれど・・・このキャミソールはちょっと・・・恥ずかしい・・・。
その上しっかりと化粧をされ髪の毛も弄られて、これ本当にあたしなの!?ってぐらいの出来栄え。
「これでもまだ抑えた方なんですってば。先輩すんごい抵抗するから」
「これで??」
「そうですよーっ! でも、うん! やっぱり千枝先輩似合いますよ、可愛いのも」
にっこりと笑うりせちゃんはアイドルなだけあってとても可愛い。
その彼女に似合うと言われるのならそうなのかなーとも思いたくはなってくるけれど。
「あ! 花村せんぱーい」
「え? ぎゃーっ! 呼ばなくっていいからっ」
と止めた時にはすでに遅く、りせちゃんとあたしに気がついた花村はこちらにやって来てしまった。
慌てて背中を向けて花村の視界に入らないようにする。
だって! こんなの見られたら絶対笑われるっ!
「なにやってんだ?」
「今、千枝先輩で着せ替えしてたんですよ」
「着せ替え?」
「だって、千枝先輩可愛い服似合わないっていうから」
「ふ?ん」
し、視線を感じる・・・。
「千枝先輩、諦めて振り返った方がいいですよ」
「だ、だって、似合わないし!」
「そんな事ないですってばっ」
そうして強引に振り向かされた先に花村がいて。
笑われるのを覚悟して目を瞑ったあたしに耳に届いたのは意外な言葉だった。
「なんだ。似合うじゃん」
「は?」
「相当嫌がってたからどんなに似合わねーのかと思ったのに」
「ねー、そうでしょ?」
二人の声なんて聞こえなかった。
何言った、今。
似合う、って・・・似合うって言った?
あ。なんだろ。すごい、胸が・・・。
きゅんとする、と思ったその矢先。
「これ、りせちーの見立てなんだろ? そりゃ似合うよなっ!」
と言った花村に怒り心頭。
「一言余計だっ!」
頭で考えるよりも先に足が出たあたしだった。
配布元:Abandon
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