ぱちぱちぱち。










 ぱちぱちぱち!

 静まり返った音楽室に一人分の拍手が響いた。

「すごいです! 先輩!」

 直斗は目を輝かせながら俺を見つめていて、その曇りのない賛辞に照れくささを感じる。
 吹奏楽部での楽器はトランペットだけど、今は子供の頃習っていたピアノを彼女の前で演奏した。

 久しぶりだったから指は硬くて、最初に弾いた時はひどい有様だった。
 だから、内緒でずいぶんと練習して、今日、直斗の前で演奏をしたのだ。



 二人で学校帰りに寄ったジュネスで流れていた『G線上のアリア』。
 直斗が綺麗な曲だと呟いたから、二度と弾く事はないだろうと思っていたピアノの蓋を開けた。

 君に、聞かせたくて。
 いや、聞いて欲しくて。

「先輩、覚えていてくれたんですね」

 少しはにかんだその顔が可愛らしい。



 君が笑ってくれる為ならば、俺はどんな事もしよう。
 誰よりも大切な君。

 近くにいられる間にたくさんの想いを君に注ぎたいから。







配布元:Abandon
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