なるほど。










「ねー、直斗。なに難しそうな顔をしてるの?」

 腕を組んで、推理中でもなかなか拝めない難しい顔をして唸っている直斗を見つけたのは、放課後の廊下。
 一点をただじっと見つめて、周りなど見えていない様子の直斗の様子にただ事ではないかもしれないと声をかけたのだが。

「あ、久慈川さん」

 あっさりとこちらを見た直斗はいたっていつもどおりだった。

「どうしたの?」
「え!? えっと・・・」

 改めて聞くと、直斗は不自然に、且つ、少し気まずそうに視線をそらす。
 それだけでりせの中の恋愛アンテナが『ピピピッ』と感知する。

「もしかして、先輩に関係する事?」

 あえて誰とは言わない。
 けれど、誰のことかをすぐさま察したのか直斗は色白の肌をさっと朱色に染めた。

「赤くなった! かーわいいっ、直斗」
「か、からかわないで下さいっ」

 声を荒げて、うつむいてしまう直斗はやはりとても可愛い。
 格好は男の子だが、やっぱり直斗は女の子なのだな、とりせは小さく笑った。

「で? どうしたの? 悩み事なら聞くよ」
「いえ・・・その・・・大した事じゃ、ないから」
「大した事じゃないなら教えてよー」

 重ねて問えば、彼女は諦めたようにため息をついて口を開く。

「・・・だから、その・・・。せ、先輩と一緒に帰る約束をしていて・・・先輩が来てくれた時に・・・どういう顔をしたらいいのか、分からなくて・・・・・・」

 え? それだけ?

 ついうっかり言葉に出そうになった言葉を飲み込み。

「そ、そうなんだー」

 なんて笑ってみるが、りせは口元が引きつるのを抑えられなかった。
 そんなりせの様子に直斗は再び頬を真っ赤に染める。

「だから大した事じゃないって言ったじゃないですかっ」

 こちらがなにを思ったのかを察した直斗に怒鳴られて誤魔化すように笑った。

「ごめ〜ん、直斗」
「なにが『ごめん』なんだ?」
「あ、先輩」
「!」

 ふいに届いた聞き覚えのある声にりせは明るく声を張り上げる。一方直斗はびくりと肩を震わせて口元をあわあわとさせていた。

「せ、先輩・・・」

 ようやく声を絞り出したらしい直斗の声は、聞いた事のないくらい甘い響きを持っていてりせは目を瞬く。

「直斗、遅くなってごめん」
「いえ、そんなに待っていませんでしたから・・・」
「本当に?」
「ひゃっ」

 疑わしげな声を共に彼の手が直斗の頬に触れた。

「ああ、やっぱり。冷たいじゃないか」
「そ、そんな事、ないです」

 瞳を潤ませて、じっと彼を見つめる直斗。
 どんな顔をしたらいいのか分からないと難しい顔をしていた面影はすでにない。
 二人は周囲など目に入っていない様子でイチャついていた。

「こういうの、なんて言ったっけ?」

 う〜んと首を捻って考える。

「あ。そうだ。『バカップル』だ」

 そうだそうだと頷いていると、ふいにこちらを見た先輩が一言。

「なるほど」

 納得したように頷いて、直斗に向かって微笑んだ。

「俺たち、『バカップル』だって」
「え、えええぇっ! なにを言っているんですか!」
「俺はけっこう嬉しいんだけど、直斗は嬉しくない?」
「え! そ、それは・・・その・・・・・・」

 頬を染めてうつむく直斗を愛しそうに見つめるその瞳の甘い事といったら。



「なんか、ここにいるのがバカらしくなってきた」

 りせはため息をついて二人に背を向けたのだった。







配布元:Abandon
Back