あははは!これ、面白い!










「あははは! これ、面白い!」

 その声が響いたのは昼休みの事だった。  それが陽介や千枝が発したものだったら誰も気にかけることはなかっただろう。
 だが、その声の持ち主はどう考えてもそんな大声を上げて大笑いをする人物ではなくて。

「ちょ、雪子。声、デカいって」

 慌てる千枝の制止など聞こえないのか、その人・・・雪子は腹を抱えて笑い続ける。
 いつもなら静かに、けれど凛と通る声音を発する人が爆笑をしているなんてなんの冗談なのか。
 教室にいたほとんどの生徒たちが唖然とその姿を見て固まっていた。

「もぅ〜・・・みんな固まってるよ」

 千枝が頭を抱える傍で、陽介はカラリと笑う。

「いいじゃん。これが本当の天城なんだろ? 澄ましてみんなと距離とって壁作ってるよりマシじゃね?」
「いや〜・・・そうだけどさ」

 少しばかり不安げに表情を曇らす千枝に首を傾げる。

「なんだよ」
「ん〜・・・」

 言葉を濁しながら今もまだ明るく笑う雪子を見て苦笑した。

「ちょっとね、寂しいなって・・・」

 自分にしか見せなかった本当の雪子。
 それを自分だけではない、他のたくさんの人たちにその姿を見せている。それが少し嫌だった。

 これは、幼い独占欲。

 閉じられた世界は、視野を狭めるだけだって分かっている。
 けれど、それでも・・・。



「・・・なるほどね」

 頷いて、突然頭を撫でられる。

「ちょっ! なにすんのよ!」

 驚いて目を見開けば、陽介が思いのほか優しい表情で笑っていて押し黙った。

「心配しなくても、天城の一番のダチはおまえだと思うけどな」

 そんな顔で笑うなんて反則だと、千枝は動揺を隠す為に不機嫌そうに眉を寄せて顔をそらした。

「・・・そんなの、分かってるよっ」

 苦し紛れに搾り出した声は届いているのか。
 少しして陽介がいつものように笑う気配を感じたのできっと届いているのだろうと、千枝もまた笑みを浮かべた。







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