ナイス、コメント!
「ねえねえ! せっかくみんなで新年会やるんだから、何か面白い事しようよ!」
その言葉を発したのは誰なのか。
ともかく、悪ノリした一部を除いた女性陣とクマの勢いに負け、なぜか仮装パーティをすることになった。
しかもなぜだか、男女で組んで仮装を競うというとんでもない状況になってしまったのだ。
その上仮装をするのは男性陣。内容は女装なら何でもいいという最悪の事態に・・・。
審査員は堂島家の父娘。
なぜだろう。文化祭を思い出すのは・・・。
思わず遠い目をしてしまう。
「ちょっと! ちゃんとこっちを見てよね!」
ぐいっ、と上向き気味だった顔を容赦なく下を向かされる。
そうして正面から見たりせは真剣にメイク道具を握っていて。
「お、おう・・・」
あまりの形相におとなしくしているものの、正直どこを見たらいいのか分からない。
こんなに彼女の顔を近くで見るのは10月の文化祭以来だ。
「今度はぜーったいクマに勝つんだからっ」
気合を入れたりせの、目を閉じろとの要望に素直に応じる。
瞼の上をくすぐる筆の感触がむず痒い。
それに、時折頬をくすぐる吐息に自然と体が固まる。
「ちょっとー固すぎ。もう少し顔の力を抜いて」
そんな言葉もなんだか頭に入らなくなってきて、なぜだか心臓がバクバクと早くなった。
香る香りの甘さにくらくらする。
今までりせに対してこんな感情を持った事がなくて動揺が抑えきれない。
「完二?」
間近で聞こえる問いかけに応えられるほどの余裕もなく、完二は頭を抱えた。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ」
慌てた様子を見せるりせの手が腕に触れる。
その手の柔らかさと小ささに再び顔から火が出そうなほど熱くなった。
「うるせーっ! しょうがねぇだろ! 心臓がうるせぇんだからっ!」
「は?」
「おまえもうオレに近寄んな!」
「なっ!」
完二の暴走にりせが絶句する。
何事かと他の部屋から仲間達も部屋に入ってきた。
「どうしたんだよ」
「なんでもないっすよ!」
「なんでもなかったら、なんでりせちゃんが泣いてるのよ」
千枝の言葉にりせを見れば、はらはらと今まで見たこともないような表情で静かに涙を流す彼女がいた。
「あ・・・」
そこで初めて自分の失言に気がつく。
「わ、わりぃ。さっきのはその・・・」
まさか、りせを女の子として意識して動揺して勢いで言ってしまったとは言えず言葉を濁した。
「完二・・・私のこと嫌いなの?」
「や・・・嫌いじゃねぇ」
「じゃぁ、なんで?」
「だから・・・その・・・・・・」
濡れた瞳でじっと見つめられて、傷つけた事への罪悪感と同時にどうしようもなくその姿が可愛く見えて。
「おにいちゃん、りせちゃんが好きなんでしょ?」
「ハァ!?」
ふいにふってきた言葉に盛大に動揺する。
振り向けばいつの間にか菜々子がこちらを見上げてにっこりと微笑んでいた。
「おおっ。菜々ちゃん、ナイスっ!」
後ろで千枝がガッツポーズをしているが、それよりも今は。
「だって、嫌いじゃないっていったもん」
「や、それは言ったけど・・・」
あまりにも純真な瞳で問いかけられて完二は言葉に詰まる。
「だからって・・・す、好きって・・・」
菜々子はまだ『好き』という言葉には種類がある事をしらないのか。
けれどそれよりもなによりも、そんな事を考えて言葉を詰まらせる己の心に愕然とする。
今までりせをそういう対象で見たことがなかった。
けれど今はそういう対象で彼女を見てしまっているというのか。
「あ〜もうっ! はっきりしなよ!」
千枝の苛立ちの声と、その隣で怖い目でこちらを見る雪子の視線に完二は思わず声を張り上げた。
「好きですっ!」
勢いとはいえ、声を張り上げてしまった羞恥心に頭を抱える。
けれど、一瞬垣間見れたりせの満面の笑顔に己の恥などどうでもいいと思ってしまったのも事実で。
もしかしたら本当に彼女を好きになってしまったのかもしれないと完二はこっそりとため息をついたのだった。
配布元:Abandon
Back