見えない人
誰もが皆、心の闇をさらけ出したのに、あなただけ一人抱えた闇は具現化することはなかった。
それは始まりが特別だからと言われてしまえばそれだけなのかもしれない。
イザナミ自身も認めた、希望の人。
けれど僕は、本当のあなたを見てみたい。
その心の、奥深くに眠る真実を。
あなたの抱える闇をすべて、僕の前にさらけ出して欲しい。
笑顔に隠された弱さを、もっと。
「僕は、あなたの真実を見ることは叶わないのでしょうか」
隣で眠るあなたの頬に触れる。
少しだけ低い体温。
目を閉じたあなたはまるで彫刻のようで僕は不安になる。
「僕に見せてくれる顔は、本当のあなたですか?」
瞼が熱い。
涙が零れそうになる。
「直斗・・・」
ふいに僕を包み込んだ暖かい腕。
「どうした? 怖い夢でもみた・・・?」
溢れた涙が唇にさらわれて行く。
「・・・そうみたいです。本当のあなたが、どこにいるのか分からなくなる夢でした」
「・・・俺はここにいるよ。直斗の傍にいる」
「はい。そうですね・・・」
優しい温もりが切なくて、やっぱり涙が止まらない。
再び眠りについたあなたの胸に頬を寄せた。
いつの間にこんなに欲張りになったのか。
あなたのすべてが欲しいだなんて。
僕の涙があなたのシャツに吸い込まれていくように、あなたの心の中に入り込めたらいいのに。
そうしたら、あなたのすべてを見ることが叶うのだから。
配布元:Abandon
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