知らないことだらけの君










「ねー、王子? 王子がゲオルグ殿を好きになったのっていつなんですか?」
「え?」

 突然のカイルの質問に、内心ぎくりとしながら彼を見る。

「隠さなくていいですよー。オレ知ってますから」

 ウィンク付きで親指を立てられて曖昧な笑みをぼくは浮かべた。

「・・・・・・いつから、知ってたの?」

 この、誰にも知られてはいけない恋心を。

「うーん。確信したのはつい最近ですけど、前からもしかして?とは思っていましたよ」
「そうなんだ・・・」

 そんなに分かりやすいのかな、ぼくは。
 ガクリと項垂れると、軽快な笑い声が響く。

「そんなに落ち込まないでくださいよー、王子」
「ねえ、カイル。ぼくってそんなに分かりやすい?」
「どうでしょうねぇ。オレは恋愛ごとには聡いですからね! ゲオルグ殿と一緒にいた時に見た王子のはにかんだ笑顔でピン!ときただけですし」
「そ、そんなので分かるの!? ま、まさかゲオルグに気づかれてなんて・・・」
「んー・・・。それは・・・大丈夫だと思いますよ。あの人、わりと鈍いみたいですし」
「そう・・・」

 ほっと、胸を撫で下ろす。

「知ってほしくないんですか?」
「そりゃ・・・嫌われたくないし・・・・・・」
「・・・ゲオルグ殿が? 王子を? そんな事ある訳がないじゃないですかー!」
「どうして? ぼくは男だよ? 男に恋愛感情で好きだって言われたら、いくら懐の広いゲオルグでも嫌でしょ?」
「それはー・・・」

 否定もせずに困ったように眉を寄せるカイルに、ぼくは改めて絶望感がこみ上げてきた。
 分かっていたことだけど、こう反応されるとやっぱり辛い。
 もし、ゲオルグにそんな反応をされたらぼくは立ち直れないよ・・・。

「大丈夫ですよ、王子。そりゃ。ごつい男に告白されたらさすがのゲオルグ殿も戸惑うと思いますけど、王子にだったらきっとありのままに受け止めてくれますって」
「・・・なんでぼくなら、なの?」
「それはー・・・王子だからです」

 にっこりと微笑むカイル。
 ぼくは彼のいった言葉の意味が分からないくて首をかしげるばかりだ。

「よく分からないよ、カイル」
「今は分からなくてもいいんじゃないですかねー」
「言っていることがおかしいよ」
「そうですかー?」

 とぼけた顔で宙に視線をやったカイルを睨み付けると、彼は「あははー」とごまかす様に笑った。

「まったくもう。カイルはいつもそうやってごまかすんだから」

 ゲオルグがなんで『ぼくなら』受け止めてくれると思うのか。そんな気になる事を言っておいて根拠を教えてくれないなんて。
 むくれていると、カイルはやっぱりにっこり笑って言う。でも、少し寂しそうに見えるのは気のせいかな。

「やっぱりまだ、知らないでいてください」

 ゲオルグ殿の気持ちも、オレがなぜこんな事を言うのかも。

「まだオレたちの王子でいてくださいねー」
「?」

 やっぱり言っている意味が分からない。
 首をかしげるぼくにカイルが再び聞く。

「それで、ゲオルグ殿を好きになったのはいつなんですか?」
「!」

 そんな事、改めて聞かれても恥ずかしくて答えられないよ!








Back