大人のジレンマ。










 親友の息子。
 守護すべき王家の王子。

 男にしては女性的な、美しいファルーシュ・ファレナス。

 ずっと子供だと思っていたのに、いつからか惹かれ始めた。
 そしてまたファルーシュも俺を見ていることに気がついた。

 その視線は臣下を見る目でも、親しいものを見る目でもなかった。
 気がついてしまえば、加速を増す己の中の感情。

 手を伸ばせば届く距離にいる。
 そう思うと同時に腹の底から生まれてくる欲。

 綺麗なファルーシュは俺がこんな事を考えていることなど思いもよらないだろう。
 それどころか、すべてを奪いたいと思う感情すら知らないように見える。

 いや、見えていた。



「・・・ファルーシュ?」

 袖にかかる重み。
 俺の腕を抱きこんで俯くファルーシュを呼びかけるが反応がなかった。

「・・・あ・・・・・・の」

 しばしの沈黙の後、顔を上げた子供の顔には、子供ならけっして浮かべない艶のある表情を浮かべていた。

 14も年の離れた子供。
 けれど、15歳の、まったく何も知らないとは言えない大人になりかけの子供。

「・・・ゲオルグ」

 消え入りそうな声で、恥じらいを浮かべた顔で、潤んだ瞳で。

「ファルーシュ・・・」

 ドクリドクリと血が騒ぎ立てる。
 己の中の獣が目覚めようとしていた。

 彼は大人になりかけた15歳。
 けれど、精神も肉体もまだまだ未熟な15歳。

 手を伸ばせば届く距離。
 汚してはダメだと警鐘が鳴り響く。

「ゲオルグ」

 心を貫く強い視線。
 未熟な体の震えが止まる。
 小さな、その唇が開く。

「    」




 ・・・この誘惑に勝てるものなどいるものか。








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