唇の感触を抱きしめて。










 静かに吐息を零す唇に触れる。
 ひどく柔らかなそれは反応を返す事はなかった。

 当然だ。ファルーシュは深い眠りに落ちているのだから。

 シーツに流れる長い銀色の髪。
 惜しげもなく白い肌をさらしているのは、先ほどまでしていた行為のせいであろう。

 この唇から零れ落ちる甘い声も、己の痴態に恥じながらもそれでも大胆に足を絡めて腰を揺らす姿も、すべてが俺を煽る。
 清廉な様子を見せている今が嘘のような情事の時のファルーシュ。

「ん・・・」

 何度も小さな唇を辿っていると、僅かにそこが開かれた。
 ちらりと見える赤い舌が何かを求めているように見えて、俺は指を差し入れる。すると舌が緩慢に動き出す。

 二本入れた指の腹を辿り、唇を窄めて吸うしぐさ。
 試しに指を抜き差ししてみると、歯を当てないように唇がそれに沿われて確信する。

「俺のを銜えている夢でも見ているのか?」

 何度か動かしていた指を浅めに差し入れたままにしておくと、心得たとばかりに指先を舌で捏ねる。
 そうしてまた舌全体で指を舐め始めたファルーシュの頬は僅かに紅潮していた。

「ん・・・ん・・・っ」

 小さく呻きながらも、目覚めた様子はない。

 もう片方の手でシーツを剥ぐと、全裸の肌はそのままに、僅かに胸元の粒は立ち上がり、ファルーシュ自身もまた反応をしていた。
 それに触れようとして、けれどふとイタズラ心が芽生えてしまった。

 このままイクんじゃないのか?と。

 直接手を触れるのは止めて指を口から引き抜き、その手で胸の小さな粒を引っかくぐらいにする。

「あっ、ん・・・」

 ピクリと体がはねた。
 あまりの反応の良さに起きたんじゃないかと顔を覗き込むが、どうやら、そう ではなかったらしい。

「あ・・・はっ・・・ぁ」

 甘い吐息を零す唇は、先ほどまで口淫していたからか濡れて赤く染まりひどく美味そうな塩梅だ。
 自然と己の乾いた唇を舐め、喉を鳴らす。

 己の中の凶暴な欲が湧き上がってくるのを感じた。

 もうすでに交わった後だと言うのに、こうも際限なく溢れてくるとはまだ自分も若いものだな、と苦笑を零す。

 僅かに腰を揺らめかせているファルーシュに唇を寄せて囁いた。

「・・・起きているんだろう?」

 相手をしてもらうぞ。

「!」

 そうして目を開くよりも前に小さな唇に噛み付く。
 ついでに手も下半身に伸ばして『否』を封じた。

 やはり、こいつの唇は甘い。
 口付けをせずにはいられない、この感触。

 抵抗とばかりに俺の唇を噛んでくるが、本気ではない事は分かっている。
 僅かに唇を離すと、拗ねたようにこちらを見るファルーシュがいた。

「・・・あなたが、いけないんだ。あんなに・・・ぼくの唇を触るから」

 掠れ気味の声で呟かれた睦言に思わず笑みが浮かぶ。

「おまえの唇の感触が悪い」
「なに、それ・・・」

 困ったように返すファルーシュの唇に再び口付けて、今度こそ華奢な体の上に乗りかかって本気の愛撫を始めたのだった。










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