一緒にいたいんだ。
初めて出会った日、ぼくはあの人の瞳に射すくめられたのを覚えている。
まっすぐに、濁りのない目で見つめられて、心臓を鷲掴みされたような錯覚を覚えたものだ。
大きな体も、その強い眼差しも、ぼくには少しだけ怖くて、何かと避けてしまうくせに、それでも、姿を見かければ視線で追いかけてみたり・・・。
自分でもなぜこんな事をしているのか分からなかった。
けれども、彼が子供のようにチーズケーキを食べて満足げに笑った姿を見た瞬間、心の中の恐怖は消えた。
あまりのギャップに驚いたのかもしれない。
それと同時に可愛い、とも思ってしまった事は内緒だけれども、でも、それがきっかけで彼に対する印象が変わった。
その日から、ぼくは誰が見ても飽きれるくらい付きまとった。
もっと、彼のことが知りたかったから。
あの人も、少し困ったように眉を寄せながらもそれでも嫌がらずに相手をしてくれた。
そんな、幸せな日々が続いていたある日、それは起こった。
前々から不穏な空気があったけれど、それでも父と母と女王騎士たちなら絶対に大丈夫だと信じていた、あの日。
・・・両親が死に、リムは捕らわれ、妹を残してぼくは太陽宮を・・・ソルファレナから逃げ出した。
落ち延びたルナスにも追っ手が迫り、反ゴドウィン派のバロウズ邸に身を寄せても心が落ち着く日もなく、サルムの手のひらの上で踊らされていると分かっていてもどうすることもできず・・・。
ぼくが不安な顔をすれば伯母上やリオンが気にするから、虚勢を張って弱さを隠した。
ぼくは男だから、たとえぼくよりも二人の方が武芸に秀でていたとしても、彼女達を守らなければならないという気持ちもあった。
でも、ゲオルグは違う。
彼はぼくと同じ男で大人で剣の腕もいい。なによりも父が誰よりも信頼していた人だったから。
だから、自然とぼくはゲオルグを心のよりどころにしていた。
伯母上やリオンと同じように不安な顔や弱さを見せることはできなかったけど、それでも、彼の顔を見ると安心した。
虚勢ではなく、自然と頬の緊張が緩んで笑うことができた。
そして発覚した『女王殺し』の真実。
彼は何も言わずに本拠地を去り、ぼくの心は混乱と動揺で揺れた。
そんな中で訪れたリム奪還のチャンス。
ようやく再会できたというのに、叔母上の裏切りとリオンの負傷。
城を出てからずっと一緒だった人たちが、次々とぼくの前から消えていく。
心が壊れそうになりながら、ガレオンから知らされた『女王殺し』の真相。
その時にはもう、自分の感情がどこにあるのか分からなくなっていた。
でも、けれど。
あの再会の瞬間。
すべての感情が凪いだ。
嵐のように荒れていた心が、彼を目にしたとたん驚くほどに静かになって、そして心に浮かんできたのは、『会いたかった』の、ただ一つだけ。
そこまで来てようやく分かった。
ぼくは、この人のことが好きなのだという事を。
思えば、出会ったあの瞬間からずっと彼のことが好きだったのかもしれない。
そんな事を今は思う。
ぼくのすべてを奪うからこそ怖くて、でも、違う一面を見たら近づきたくなって。
近づいたらもう、離れられなくなっていた。
「ゲオルグ・・・」
いつか、この地を去ってしまう人だと分かっている。
それでもぼくは、彼と一緒にいたいんだ。
たとえ、この想いが報われなくても、今、抱きしめてくれる腕にぼくは確かに満たされていた。
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